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ひんやり感

ブログです。

アルバイトのショート・フィルム

作文
アラームの音楽はジャクソン・C・フランクの「ブルース・ラン・ザ・ゲーム」だった。iPhoneのバイブレーションは耳に障るが、目覚ましなのだからそれでいいのだろう。私は眠りから這い出し、緑のシャツに袖を通した。眼鏡をかけると、指先が動かせる程度には目が醒める。私の指先は死にかけた小動物みたいにぴくぴく動く。寝癖直しのスプレーをして家を出た。秋らしく冷たい朝だった。6:28の電車に乗ると、7:45に現場に着いた。

それから18:00まで、都内某所のコールセンターでアルバイトをしていた。派遣の日雇いバイトだ。京都に住んでいるごつごつ声のお婆さんは「よろしですね」と言って電話を切った。その日最後に電話を掛けてきたおばさんは、「疲れているんですか?」と私に訊いた。「ああ、そうですね。少し疲れているかもしれません。疲れてるように聞こえますか?」「いえ、そういう訳では無いんですけどね。朝からいらっしゃるんでしょう」「そうですね、だけど人とお話しすることは好きなので」「それから、お若いんですか?」「二月で二十二歳になります」「そうでしたか。息子と同い年です。頑張ってくださいね」「ありがとうございます」

帰りがけ、自宅の最寄り駅の改札の中にある書店に立ち寄った。その日は鞄に本を入れ忘れていて、手寂しい私は何か手頃な文庫本を一冊求めていたのだが、面白そうな本は一冊も見つけられなかった。私は「これならツイッターフェイスブックを眺めている方がまだマシなのではないか」と思った。ツイッターを眺めながら書店を後にした私は改札を出るとスーパーに立ち寄ってビール(のようなもの)を買った。それから自宅とは反対の方向に向かって歩きだした。夕暮れの暗い明かりを含んだ雲が夜へ去っていく。私はその雲と肩を並べて歩いている。十分後、私は自販機の傍らにビール(のようなもの)の空き缶を置葬する。辺りは子供の手の中に握られたみたいに暗くなっていた。