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フィリピン出稼ぎ日記

ホテルのバックヤードでエレベーターを待っていると、エレベーターの奥にある階段から同僚のフィリピン人が下りてきた。グレンさんという三十代後半のお兄さんで、実年齢より少し若く見える。
「ゆうやさん!」グレンさんは俺に気づくと明るくなって、客の忘れ物が入ったカゴを漁り始めた。「これ、プレゼントね!」彼の手には親指サイズの水鉄砲が握られていた。
「いらないです」
断ると、その水鉄砲でおれを撃ってきた。
「うわっ!」
たじろぐおれを見て、彼はにっこり微笑んでいた。

 

数日後、グレンさんはおれの髪をセットすることを思いついた。何かの話の流れで、迂闊にも髪型を褒めてしまったところ、
「じゃあ、ゆうやさんもやりましょう!私がやってあげますね!」
ということになり、その日はすれ違う度に
「ゆうやさん!あした髪の毛やりますね?」
と言われた。おれはその都度断ったが、有無を言わさぬ感じのニコニコ顔だった。

 

翌日、朝イチの雑務を終えて上階にいくと、グレンさんが待ち受けていた。
「ゆうやさん!それじゃやりますね!」
グレンさんは新しいワックスの封を切り、おれの頭にそれを手早く塗りたくると、新人美容師のように溌剌とした動作で髪をピンと立たせて、自分と同じトウモロコシのようなヘアスタイルにしてみせた。その場に居合わせた別のフィリピン人のおばさんが「ゆうやさんかっこいいね〜!」と褒めてくれたが、なんとも説得力がない。流石に間抜けな感じだったのだろう、最終的には七三的な髪型に落ち着けてもらった。

 

下の階に戻ると、所長がPCの画面を見詰めていた。おれは出勤時と違う髪型になってしれっと下りてきたので、なんだかソワソワしてしまったが、所長はとにかくスルースキルの高い人なので、一瞥して終わりだった。

 

その後、シーツ発注などの事務仕事をしていると、おれと同年代のフィリピン人三人組が出勤してきた。男二人女一人、セブ島の辺りから日本にやって来て、高円寺でルームシェアをしながら働いている、タフな人達だ。三人組はおれの頭がいつもと違うのを見つけるとすかさず、「髪いいですね!」「カッコイイ〜!」と褒めてくれた。からかっているだけだと思うのだが、三人組のうちの一人が北斗の拳に出てくる悪人みたいな髪型なので、もしかすると本当に肯定していたのかもしれなかった…よく分からない。

おれは、まあいいか…と思って、一日その髪型で働いたのだった。どうでもいいのだが、生まれて初めてのワックス体験であった。性に合わないから、もうやりたくないなあ…。