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タコライス地獄からの手紙

これはただの日記である。仕事の日はいつも職場内の自販機で買ったおにぎりとかを食べているのだが、もう飽き飽きしていた。「もう少し上等なランチが食いたいな」という一心で、おれはタコライスの出前を取ることに決めた。この頃よく聞く、ウーバーイーツというサービスがある。まあ出前館みたいなやつだろう、と思って、軽い気持ちでそれを利用した。外人が適当に運んでくるものだというのは注文が完了した後で知った。

 

おれはホテルで働いていて、従業員用の通用口があるのだが、外人は一般客用のエントランスに突っ込んでいったらしかった。「中に入れませんでした」みたいなカタコトの電話がかかって来た。配達員とは電話で連絡がとれるようになっているのだ。おれは、「従業員用の裏口に来てください」と返事をした。外人はホテルの従業員に裏口の場所を訊こうとしたらしい。なるべく易しい日本語で裏口まで案内しようとしたが、外人はいつの間にかホテルのスタッフに電話をパスしていた。「あの、ホテルの者なんですけど」ホテルマンは言った。

 

結局、ホテルマンの付き添いで外人は裏口に辿り着いた。ホテルマンは半ばキレかかっているような口調で、おれの所属している会社、それからおれの名前を問い質した。出前を取るというのは客にも止めてくださいと言っている位のことで、完全にNGだったらしい。おれは平謝りしながら、脇にいる外人が持ってきてくれたタコライスを受け取った。

 

タコライスはタコ(?)とライスの比率が松屋牛めし位の感じで、ややもの足りない仕上がりだったが、オシャレ系の食い物なのでルートビアと合わせて1200円掛かった。高い。まずくはなかったけど、まずいことにはなった、とか一人で思っていた。ウーバーイーツのアプリを開くと、「この配達者を評価して下さい」という画面が表示された。配達者の顔写真の下に、可・不可を表す二つの手がある。おれは親指が奈落を指している方の手を選択した。

 

二時間後、ホテルの偉い人から結構怒られた。それから十五分後、恐る恐る上司にその旨を報告した。上司からも怒られた。三十分後、上司もホテルの偉い人から怒られたらしい。

「俺も(偉い人)さんから怒られたよ」

「すみません……」

すみませんの一言だけでは罪を贖いきれない感じがしたので、おれはそそくさと事務所の片付けを始めた。もともと向こう一週間ぐらいで事務所を片付けなければいけない、という状況だったのだ。こういう時、やるべきことがあると大いに助かるなあと思った。

 

おれは、片付けとか模様替えみたいなことが元来好きであるらしく、気づいたら三十分くらい経っていた。雑然としていた事務所はわりときれいになっていた。おれは自分の失態も半ば忘れてスッキリした気持ちになっていた。上司から「もう帰っていいよ」と言われたので帰った。

 

電車では「パルプ」という小説を途中まで読んだ。この前ゴミ捨て場で拾った東野圭吾にはまだ手を付けていない。新宿に着いて、乗り換えの電車を一本見送り、次の電車で座った。座り次第眠ってしまった。次に目を覚ましたのは電車が聖蹟桜ヶ丘を去る頃だった。

 

電車の中で、風になびく森を上空から固定カメラで撮影した動画と、犬かきをしているコーギーを下から撮影した動画を見た。森は細胞のようにウニョウニョと動いていた。コーギーはマシュマロのようにウニョウニョと泳いでいた。おれはウニョウニョした気分で家に帰った。