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そしておれはトミ子の幸福を願う

以前、バイト先の同僚Yさんの勧めで占い師の許を訪ねたことがある。占って"頂いた"のはパートナーのさとこ。彼女は色々と根深い悩みを抱えていた。占いの館はどこかの街の駅からバスに乗って15分くらいのところにあった。占い師のお婆さんは占い師ネームの書かれた名刺を寄越してきたが、本名はトミ子と言うらしかった。挨拶もほどほどに、トミ子は「ズバリと言い当てる」的雰囲気を醸し出しながら説教を始めた。

 

「あんたは甘えてる」「私は片方の目が見えないけど女手一つで子供たちを育て上げた」「私の客には有名な政治家もいるわよ」「とにかくがむしゃらに働きなさい。そうすることで得られるものがある」

 

失礼ながら実に旧時代的な意見だとは思うのだが、それなりの説得力はあった。それは多分、トミ子自身の人生に根差した言葉であったからだろう。さとこはいろいろ言われて落ち込んでいたし、おれも「なんだこいつ」と思わないではなかったが、はい、はいと頷きながら話を聞いた。それからさとこは持病である足の痛みについても相談した。

 

「それは足そのものが引き起こす痛みじゃないわね。産婦人科に行きなさい。なるべく早く行くのよ。分かったわね」

「ハイ」

 

そんな会話があった。

それからトミ子は趣味で描いているという絵や詩を見せてくれた。地蔵と野菜の絵。生きることに関する詩。様変わりした故郷の、在りし日の風景を思い起こして描いたもの、等々。べつに好きじゃなかったけど、悪くなかった。何より、絵や詩の話をしているとき、トミ子は少し童女のように明るかった気がする。そんなこんなで占いは終了した。

 

「ありがとうございました」

「二人分だから二万円ね」

 

なぜか同伴しただけのおれもちゃっかり金を取られた。おれは、商魂の逞しいクソババアだな、なんて思ってなかった、ぜんぜん思ってなかったです。ありがたやありがたや…。

 

「私も出かけるから、駅まで送るわよ」

トミ子は言い、タクシーを呼んだ。しばらくしてタクシーが来る。運転手とトミ子は顔なじみであるらしく、何か挨拶を交わした。それから我々は占いの館から一番近い駅で降りた。これは三年くらい前の話だ。

 

最近、さとこは大きい病院の総合診療科というところで足の痛みの原因を調べた。今日も病院だった。おれは付き添って病院へ行った。今日、ひとつ分かったことがある。さとこの足の動脈と静脈は癒着している、もしくは静脈が奇形になっており、それが痛みを引き起こしている、ということだった。

 

トミ子。産婦人科じゃ無かったぞ。トミ子。あんたは黙って、絵とか、詩とかだけかいてれば良かったんだ。おれたちはそういうことを思った。

 

おれがこれを読む方に伝えたいことは二つ。占い師なんてただのババアだ。よくわからない病気は総合診療科で調べたほうがいい。

 

おわり